年金の支給開始年齢はどんどん高年齢化し、老後に必要とされる貯金額の試算も徐々に増えています。
定年後の再雇用では年収が大きく下がることは間違いなく、これまで思い描いていた老後の生活設計に不安を抱きはじめている方も増えています。
老後の必要資産をどのように形成していくかという問題に対して、大きな注目を集めているのが自宅の活用です。
子供達も地元を離れてマンションや戸建を購入している場合、生活圏内から離れた実家の不動産の相続はあまり歓迎されないものになりつつあります。
それなら自宅を売却し、不動産ではなく現金や証券を残しておいた方が相続もスムーズになります。また自宅を売却することで、老後資産を増やすこともできます。
この売却した自宅に賃貸として住み続けることが可能な不動産商品がリースバックです。本記事では、リースバックの詳しい仕組みと買取価格の見込みなどについて解説します。
なお、リースバックについての基本知識等の詳細解説と大手リースバック会社の比較は以下の記事も合わせてご覧下さい。
穴吹興産 竹島 健
区分投資事業部 企画系(バックオフィス)課長
【資格】
・宅地建物取引主任者
・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
【経歴】営業マンとして新築マンションで12年、その後7年間リースバックを中心に中古マンション買取事業に従事。優秀営業マン賞等受賞。現在は経験を活かしてリースバック検討に役立つ情報を発信。
リースバックの取材に関する窓口はこちら:stock_mansion@anabuki-kosan.co.jp
リースバックの売却金額は基本的に現在の相場から決定される
リースバックとは自宅の売却と同時に賃貸契約を行い、売却後もそのまま継続して居住できる注目の不動産取引サービスです。
夫婦2人の老後生活には2,000〜2,500万円もの資産(貯金)が必要とも言われますが、景気変動や物価の上昇で老後のライフプランに不安を持つ方も少なくありません。
そこで現在所有している自宅を売却することで老後資産を上積みし、その後は元自宅を賃貸契約して住むことができるリースバックというサービスが誕生しました。
不足する資金を増やす方法としては、ローンなどの信用取引や自宅を担保とした融資を受けるといった方法もあります。
しかし、将来の不動産価値の予測が難しい自宅を担保とした融資はお金を貸す側も安全マージンを大きく設定し、融資額を低く査定せざるを得ません。
自宅を今の価値で売却するリースバックでも融資のような安全マージンは設定されますが、基本的には相場価格を基準に買取査定額が決まります。
売却額が一括で支払われるので、大金が必要な場合にも活用できます。
ちなみにローンや融資は銀行の行うサービス、リースバックは不動産会社やその関連企業が提供するサービスという違いもあります。
銀行ではリースバックサービスは提供していませんが、関連企業の紹介を行なっているところもあります。
リースバックは他にもいくつものメリットがありますが、自宅の資産価値を最大限に活かすことができる点が大きな魅力です。
リースバックで重要となる査定項目
自宅の資産価値を最大限に活かすとはいえ、その資産価値がどのように決まるのかを知っておくことは大切です。
査定基準について知っておくことで、リースバックで得られる売却額の予測をしたり、複数業者からの見積もりを正しく判断することができるようになります。
査定に関する主な項目について解説しましょう。
物件状態
築年数、使用状態といった不動産としての資産価値や事故物件などの瑕疵の有無、建築基準法などと照らし合わせて違法な物件でないかなどがチェックされます。
勝手な増築をして建ぺい率を超えている物件は違法箇所の改善が行われないと買取ができないこともあります。
物件の地域
リース契約の満了後に不動産会社は物件を売りに出します。
都心部や人気のある居住エリアだと高額で不動産を売却できるので、査定額を少し高めにしても将来的に十分な利益が見込めます。
一方、どんどん周辺の人口が減少している地域や人の流通も少ない郊外の地域では査定額が下がることがあります。
将来的に不動産の活用が期待できない地域の場合、売却を断られるケースもありえます。
オーバーローンではないか
住宅ローンを支払い中の物件には銀行などによる抵当権がついています。
そのため支払いが完了していない物件は売買を行うことができません。リースバックで自宅を売却する場合、必ず残債が0でなくてはなりません。
もし、残債額が1,000万円残っている場合、リースバックで受けられる売却額が1,200万円なら1,000万円で残債をすればリースバックの取引が行えます。
もし、売却額が残債額を下回っている場合は抵当権が残るのでリースバックを行うことはできません。
住宅ローンの残債額はリースバック契約ができるかできないかにも関わりますが、せっかくまとまった金額を入手しても全て精算で消えてしまうと資産を補強するというリースバックの目的が果たせなくなります。
リース後の家賃の支払い能力
売却後の家賃(賃料)は、売却価格と利回りによって算定されます。利回りとは物件をリースすることでどの程度の儲けを得るの指標となる利率です。
この利回りは周辺物件の家賃相場とリースバック業者の経営方針によって決まります。
利回りが高ければ、家賃は高くなります。また売却額が高くても家賃は高くなります。
実際に査定時に提示された家賃で安定した生活がおくれるかどうかをよく検討して契約先を決めましょう。
売却額が少し低くても利回りを低く設定しているために家賃が安くなり、長期でみると負担が少ない(売却益が大きい)ケースもあります。
また払える家賃額を基準に売却額や家賃の交渉を試みてみることも有効です。利回りを大きく下げてもらうことは難しくても、売却額を下げて家賃を下げられる可能性はあります。
リースバックの査定から取引までの流れ
リースバック査定申込
まずはWEBフォームなどから仮査定を申し込みます。
リースバック業者は周辺の相場や提示された物件の状態(築年数や間取りなど)から机上で査定額を試算し、売買金額と毎月の家賃の見積もりを行います。
マンションでは管理費や修繕積立費の情報も必要になります。
マンション付属の駐車場や駐輪場の利用費は試算には含まれません。また町内会費なども計算対象外です。
いくつかのリースバック業者に見積もりを依頼して比較検討できるようにしましょう。一度の見積もり申し込みで複数のリースバック業者から査定見込みを得られるWEBサイトもあります。
見積もり依頼は基本的に無料なので遠慮せずに利用しましょう。
査定結果提示・検討
査定結果を複数揃えて、なるべく希望に近いところを探しましょう。
売却金額に目が向きがちですが、長くリースを利用する場合の家賃総額も大きな負担になりかねません。
前の段落で解説したように売却額と家賃にはある程度の相関関係もあるので、短期と長期の両面で資産の変動を予測することが大切です。
面談・物件調査
希望に近い提案を選び、実際にリースバック業者と面談し詳しい説明を受けます。
また机上の査定ではわからなかった物件の状態や周辺地域の様子などを先方の担当者が実際に目でみて最終的な査定の情報を揃えます。
申込者は固定資産税額の分かる書類(納税通知書・課税通知書等)、管理費・修繕積立金が確認できる書類(管理会社からのハガキ、引落しに使われている金融機関の通帳等)とローン残高がある場合は住宅ローン残高明細を用意しておきます。
その他マンションでは付属設備(駐車場、駐輪場など)の利用についてリースバック利用後も継続利用できるかを管理会社に問い合わせておくとその後の手続きが円滑に進みます。
せっかくの面談の機会ですから、リースバックの何がわからないのか、希望条件や優先順位は何なのかを事前に整理して、実りある時間となるように万全の体制で臨みましょう。
家賃保証審査
売却額と家賃について合意できたら、家賃の支払いについて家賃保証会社の審査があります。おおよそ1〜2日程度で結果が出ます。
通常の賃貸契約では保証人をつけます。学生や若い夫婦など親や親族が保証人になることが多いようですが、高齢の方の場合既にご両親ともに亡くなっている場合や年金生活で保証人と認められないケースがあります。
そのためリースバックでは家賃保証会社が間に入ることが一般的です。
審査にあたって、本人確認書類と緊急連絡先(別世帯の親族など)を用意しておきます。収入の確認できる書類が必要になることもあります(年金が振り込まれている通帳など)。
リースバック条件確定
ここまでのプロセスで問題、疑問点がなければ正式な契約へ移行します。
逆にいえば、面談の段階では正式契約にはならないので、見積もりを得たリースバック業者のうち最終候補となる会社を2、3社選び、詳しい話を聞いてみてもよいでしょう。
問題なく1社に決定した場合は、先方は社内の手続きを進めます。相見積もりを行う場合は面談時にその旨を伝えておき、先方が善意で手続きを進めてしまわないように気をつけます。
契約・決済
リースバックに関する契約と売買契約手続きを行います。印鑑と本人確認書類を用意しておきます。
リースバックで低い査定額になってしまった場合は?
リースバックを利用した物件の査定額は、一般の売却額よりも低くなります。
リースバック業者は毎月の賃貸料と契約満了後の不動産運用で利益を出さねばなりませんが、リース中の様々な費用(固定資産税、管理費、維持費、保険料など)の負担もあります。
また将来の不動産運用もリース契約の終了が未定なので、リスクヘッジをとっておく必要もあります。
ただ、このような一般論だけでなく当該地域の販売力や物件活用のノウハウなど事業者の能力による査定額の差が生じることもあります。
通常の不動産売却より下がってしまうのは、しょうがないとしても少しでもよい条件が得られるために、どのようなことができるかを解説します。
事前に相場を確認しておく
自宅の売却相場を事前に調べておくことで、いわゆる買い叩きのような状況は回避することができます。
不動産取引は面倒なイメージも強く、専門家の意見に反論するのはなかなか困難なことです。
リースバック業者の立場としては少しでも安く物件の購入ができるように(仕入れ値を下げるように)進めたいと考えるのも先方の立場からは当たり前です。
闇雲にもっと高く買って欲しいと希望を叩きつけるだけでなく、相場を調べた上で希望額に近づくような交渉であれば先方にも譲歩できる部分があるかもしれません。
冷静に話し合いを進めるためにも、具体的な反論材料を用意しておくことは大切です。
▼リースバックの相場については、こちらの記事もぜひご確認ください。
まずは、その金額になった理由をしっかり確認する
査定額の算出理由をしっかり確認することも大切です。
周辺相場を確認していても、もしかすると自宅になんらかのマイナス要因があるのかもしれません。比較対象にした物件に特別魅力的な要素があったのかもしれません。
経年劣化や立地条件が悪い(日当たりが悪い、側に崖がある、大きな道路が近く騒音がひどいなど)どうしようもない理由であれば、確認することで納得できることもあるでしょう。
可能な範囲で価格交渉を行う
提示された査定額に合理性があり、ある程度仕方がないと感じていても希望価格を伝えて少しでも近づけられないかと相談することはムダではありません。
リースバックは物件の買取額と家賃に相関関係があります。毎月の生活費に少し余裕があるならば、家賃を若干あげることで、売却額もあがります。
また査定額もここから1円動かせない、というほど厳密なものではありません。真摯に相談することで希望価格に近づく可能性は十分にあります。とりあえず気軽に相談することは、大きな手間もかからないおすすめの価格交渉手段です。
複数のリースバック事業者に相談し、「相見積もり」を行う
リースバックに限らず大きな買い物では複数業者から見積額を得る「相見積もり」が有効です。
不動産会社にも得手不得手があります。売却物件周辺の売買を得意としている業者があるかもしれません。
またリース満了後の不動産の活用方も単に転売するのでなく、グループ会社内のリフォーム会社を利用することで高付加価値をつけて販売するなどオリジナリティの高い販売戦略を持つ会社があるかもしれません。
このような不動産会社個々の事情や販売戦略の情報は簡単には集まりません。だからこそ相見積もりをとることが隠れた得意技を見つけるきっかけになるかもしれません。
またそこまで極端な事例はなくても、買取額や家賃の多少の差や条件の良し悪しは見つかるはずです。
いくつかのリースバック業者と面談を実施することになりますが、相見積もりによって得られた他社の買取額は価格交渉の材料にもなります。
多少面倒であることは否めませんが、少しでもよい条件で契約するために、必ず相見積もりはとっておきましょう。
予備知識をしっかりおさえて、リースバックの査定を依頼しよう
リースバックは業者へ査定依頼を行うことがスタートです。そしてリースバックの特徴のひとつは銀行の融資と比べて査定にかかる日数が圧倒的に短いことです。
最短即日長くても1週間程度で最終査定が終了し、直ちに売買契約が行われます。
そのため適当に目についた業者に査定を申し込んでみたら、業者のスピード感に流されてあっという間に契約が終了していたなんてことにもなりかねません。
リースバックは多くの不動産業者が手がけています。そのため基本は同じでも査定額やその後のサービスについても業者間で細かな違いがあります。
ぼんやりスピード感に流されてしまうと相場よりも安く売却していたり、サービス面での不満が後から出てきたりしかねません。
このような事態を防ぐには、リースバックについての予備知識をしっかりと持っておくこと、納得できるまで相談すること、複数業者に相見積もりを取ることが大切です。
対応の速さはリースバックのメリットのひとつではありますが、こちらの心構え次第ではデメリットにもなり得ます。売却後も10年、20年と住み続ける可能性もあります。
先のことも見据えながら、慎重に比較検討し納得できるリースバックサービスを選びましょう。