現在、テレビやインターネットなど数々のメディアでリースバックについて目にすることが多くなっています。
不動産業者を中心としてリースバックの市場規模は拡大傾向にあり、実際に利用者も徐々に増えています。
この記事では、リースバックの現状やどんな人が利用・検討しているのか、利用者が増えている理由などを2024年時点の最新情報をまじえて詳しく解説します。
リースバックを検討している人は、ぜひお役立てください。
なお、リースバックについての基本知識等の詳細解説と大手リースバック会社の比較は以下の記事も合わせてご覧下さい。
穴吹興産 竹島 健
区分投資事業部 企画系(バックオフィス)課長
【資格】
・宅地建物取引主任者
・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
【経歴】営業マンとして新築マンションで12年、その後7年間リースバックを中心に中古マンション買取事業に従事。優秀営業マン賞等受賞。現在は経験を活かしてリースバック検討に役立つ情報を発信。
リースバックの取材に関する窓口はこちら:stock_mansion@anabuki-kosan.co.jp
リースバックの市場規模は不動産会社などで拡大
不動産事業を展開する株式会社And Doホールディングスが2023年10月に発表したデータ(※1)によると、2013年から提供を開始したリースバックサービスの件数は年々右肩上がりで増えています。
2014年は16件でしたが、2023年には1,147件と大幅にアップしています。
今後も件数が増える可能性は高いといえるでしょう。
また株式会社価値総合研究所が2020年に発表した「リースバックの現状について」(※2)では、2020年時点でリースバックを取り扱う企業も増加傾向にあることが分かります。
リースバック事業における企業の関わり方は次のようなものがあります。
- 不動産物件の買取
- 物件の賃貸・管理
- 物件の売却
- リースバック契約の仲介
このうち物件の買取とリースバック取引の仲介が特に多い傾向です。
さらにリースバック事業を始めたきっかけとして次のような理由が挙げられています。
「引っ越しせずにマイホームを現金化したいというニーズが増えてきた」
「超高齢化社会を迎えるにあたっての新たなビジネスモデルとして」
「買取再販事業の延長や買取件数の増加」
「既に取り組んでいた同業他社へのヒアリングによって」
「悪質なリースバック買取業者による買い叩きや囲い込みを目の当たりにして利用者の盾となるサービスが必要と感じた」
※1 出典:株式会社 And Doホールディングス「“住みながら売却できる”ハウス・リースバック 提供開始から 10 周年」
※2 出典:株式会社 価値総合研究所「リースバックの現状について」
利用者のニーズが高まっており、市場規模が拡大したことから、企業もリースバック事業に参入してサービスを展開していることが分かります。
※1 出典:株式会社 And Doホールディングス「“住みながら売却できる”ハウス・リースバック 提供開始から 10 周年」
※2 出典:株式会社 価値総合研究所「リースバックの現状について」
リースバックの利用者はどんな人?
穴吹興産株式会社がGMOリサーチ株式会社の協力のもと、2024年4月に発表した「リースバックに関する調査」では、リースバックを検討している年齢層は60代が26%と最も多く、続いて40代が23%という結果となりました。
40代から60代をあわせると、全体の68%にもなります。
「老後資金の確保」というイメージが大きいリースバックですが、シニア層に限らずミドル層も利用を検討していることが分かります。
さらに性別では男性が87%、既婚(未婚)割合では既婚者が72%です。リースバックを検討している人の多くが既婚男性と考えられます。
次にリースバックを検討する理由を多い順にみていきましょう。(複数回答可)
- 老後資金の確保
- 生活費のため
- 終活・資産の整理
- 住宅ローンの完済
- 相続税対策
- 医療費・介護費
- 住宅ローン以外の借入の返済
「老後資金の確保」や「生活費のため」という回答が全体的に突出して多くなっています。
ミドル層でも検討している人が多いことを鑑みると、早い段階からリタイア後の生活費について考えている人が多いようです。
または、現在の生活費のためや住宅ローンの負担減などの手段としてリースバックを検討している人もいるでしょう。
▼リースバックの市場調査についてはこちらの記事でも詳しく解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
一戸建てかマンションか
同調査ではリースバックを検討している人の現在の住居は、一戸建てが67%、マンションが33%となっています。
総務省 統計局統計調査部国勢統計課が2024年4月に発表した「令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計」(※3)によると、全国の一戸建ての総数は3,301万7,700棟、共同住宅(マンションなど)は239万1,400棟です。
共同住宅の約13倍、一戸建てになる計算ですが、マンションには複数の世帯が居住しているため世帯数の差はそれほどないと考えられます。
統計結果と実際の世帯数の比率は大きく関連しているでしょう。
リースバックを取り扱う事業者には、一戸建てとマンションに対応しているところとマンションに特化しているところがあります。
査定依頼をするときは、公式サイトの情報などを参考にして、自宅の物件の種類に対応しているリースバック事業者を探すとよいでしょう。
※3 出典:総務省 統計局統計調査部国勢統計課「令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計」
リースバックの市場規模拡大の理由
リースバックへの認知度は、どの年齢層においても年々高まっており、今後もサービスの比較・検討や利用をする利用者は増えると考えられます。
さらに企業も利用者側のニーズにマッチするよう、さまざまなサービスを拡充させています。
「自宅を売却する」ということに対してハードルが高かった利用者も、リースバックサービスの充実で、大きな資金を得られる選択肢のひとつとして考えるようになったといえるでしょう。
その他に、リースバック利用者が増えている理由について解説します。
パンデミックの影響
近年、世界中を悩ませたパンデミックの影響は、現在も経済は上向きながらも続いています。
世帯によっては、パンデミック中に経済状態が急変して、住宅ローンの支払いが困難になったり、住宅ローン以外の借入が増えたりといったことがあります。
そのため、リースバックを検討、または利用する人が増えてきていると考えられます。
またパンデミックをきっかけに「いつ経済状況が変わるか分からない」「老後資金は早いうちに確保しておきたい」と考えて、リースバックを検討している人も少なくはないでしょう。
高齢化社会
リースバックの利用者が増えている背景には、日本が抱える高齢社会の問題が大きく関わっています。
内閣府が発表した「令和5年版高齢社会白書」(※4)によると、2022年10月1日時点で日本の人口は1億2,495万人、そのうち65歳以上は3,624万人と全体の29%を占めています。今後、高齢化はさらに加速するといわれています。
国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」(※5)では、2032年には65歳以上の人口が3,704万人、2043年には3,953万人との予測です。
総人口は将来1億人未満になるのに対して、65歳以上の人口は2038年には33.%、2070年には38.7%となります。つまり、65歳以上の人口の割合が2038年には3人に1人、2070年には2.6人に1人になるのです。
2070年というと途方もなく先のことに感じますが、出生率の低下もあいまって段階的に65歳以上の人口が増えていき、高齢化の波は加速していくといえます。
高齢社会への懸念は、若い世代にも広がっており、公的年金だけでは老後資金が足りないと感じている人も多い傾向です。
できるだけ多くの老後資金を確保する手段のひとつとしてリースバックを検討する人が増えています。
※4 出典:内閣府「令和5年版高齢社会白書 第1章 高齢化の現状」
※5 出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」
高齢者の持ち家率が高い
日本では、若い世代に比べて高齢者世帯の方が持ち家の率が高いこともリースバックの利用が増えている理由です。
持ち家を維持するためには、住宅ローンの返済や固定資産税をはじめとする維持費の負担が家計に影響する世帯もあります。自宅を売却すれば、こうした税金や維持費は少なくなります。
ただし、リースバック後は毎月の家賃が必要になる点に注意が必要です。
また、将来の相続対策としてリースバックは効果的な方法です。
相続人が複数人いる場合、相続問題でもめることもあり得ます。
その点、自宅を売却して現金化すれば、不動産よりも相続でトラブルが起きにくくなるでしょう。
▼高齢者のリースバック活用についてはこちらの記事でも詳しく解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
自宅に対する愛着
経済や社会の状況が変わっても、自宅にそのまま長く住み続けたいというニーズはどの世代でも同じです。
特に高齢者世帯では「生活環境を変えたくない」という要望が強い傾向にあります。
住み慣れた自宅や近隣コミュニティへ愛着、引っ越しすることの負担感、介護や通院の問題なども理由として考えられます。
しかし将来に対する不安や経済状況の激変によって自宅を維持するのが難しい場合、引っ越しをせずに長く住み続けられるリースバックを選択するのです。
リースバックの市場規模の拡大とともにトラブルも多発!
現在、リースバックを取り扱う事業者が増え、利用者側のサービスへの認知、ニーズともに高まっています。
しかし、なかには悪質な事業者がいて思わぬトラブルに発展するケースが多発しています。不動産売買取引はクーリングオフがきかないため、十分に気をつけたいところです。
国土交通省の「住宅のリースバックに関するガイドブック」
国土交通省では2021年から不動産業界団体や弁護士などの有識者で構成された「消費者向けリースバックガイドブック策定に係る検討会」を開催しており、「住宅のリースバックに関するガイドブック」を作成しています。
ガイドブックでは、リースバックの仕組みや特徴、トラブル事例、利用する際のポイントなどが解説されています。
リースバックを利用する際には、こういったガイドラインに目を通して理解を深めておきましょう。
▼国土交通省「住宅のリースバックに関するガイドブック」のダウンロードはこちら
リースバックの利用に関するトラブル事例
リースバックの利用に関するトラブルには次のようなものがあります。
- 強引な勧誘
- 法外に低い価格で自宅を売却
- 高い家賃設定で、合計すると数年で売却額より高くなる
- キャンセルができない
- 想定していた賃貸借契約とは違い、途中で退去しなければならなかった
もちろん、このようなトラブルは悪質な業者によるものがほとんどです。
しかし、なかにはリースバックに関する利用者側の理解が不十分だったことからトラブルになった事例もあります。
▼リースバックのトラブルについてはこちらの記事でも詳しく解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
契約書を確認した上で合意する
リースバックでは不動産の売買契約と賃貸借契約を結びます。
契約をする際には、契約更新の時期や種類、買戻しの可否、賃貸後に発生する賃料やその他の費用など細かい部分まで確認することが大切です。
不明な点があれば契約する前にリースバック事業者に相談して説明してもらい、詳しいことが分からないまま容易にサインや押印するのは避けましょう。
信頼のおけるリースバック事業者に相談
リースバックでトラブルにならないためには、取引を任せる事業者選びが大切です。
リースバック取引の実績が豊富にあり、自宅のある地域の取り扱いが可能な事業者を選びましょう。
ほとんどの事業者が無料で査定をおこなっており、強引な勧誘などもありません。
自分の条件に合うリースバックを利用するために、複数の事業者に査定を依頼するのもひとつの方法です。
リースバックの市場規模は拡大中! 比較・検討してみよう
リースバックの利用者は今後も増え続け、事業者側のサービスも充実していくでしょう。
自宅の売却で大きな資金を得られ、長く住み続けられるのは大きなメリットです。
しかしトラブルに巻き込まれないよう、リースバックに関する正確な知識を身につけておくことは大切だと言えるでしょう。
信頼のおける金融機関やリースバック事業者に相談してみるのもよいでしょう。