リースバックで住んでいる家から退去するとき、「原状回復」は必要?

物が無いリビング

通常、賃貸で住んでいる家を退去する際には、物件の経年劣化部分以外を極力契約時の状態に戻す、いわゆる「原状回復」が義務として発生することをご存知の方も多いでしょう。

では、住宅を売却したあとに賃貸借契約を結んだうえで住み続ける、「リースバック」の場合にはどうなるでしょうか。

本記事では、原状回復の定義から、リースバックの場合までを網羅して解説します。

なお、リースバックについての基本知識等の詳細解説と大手リースバック会社の比較は以下の記事も合わせてご覧下さい。

記事執筆・監修
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穴吹興産 竹島 健

区分投資事業部 企画系(バックオフィス)課長

【資格】
・宅地建物取引主任者
1級ファイナンシャル・プランニング技能士

【経歴】営業マンとして新築マンションで12年、その後7年間リースバックを中心に中古マンション買取事業に従事。優秀営業マン賞等受賞。現在は経験を活かしてリースバック検討に役立つ情報を発信。

リースバックの取材に関する窓口はこちらstock_mansion@anabuki-kosan.co.jp

目次

原状回復とは?

空っぽのクローゼット

まずは、そもそも「原状回復」とはどのようなことを指す言葉なのか、おさらいしておきましょう。

賃貸借契約を結ぶ際には、退去時の原状回復についての条件も記しておくことが一般的です。実際にこれまでの経験で賃貸物件を借り受ける際に、原状回復についての説明を長々と受けて、「これから入居する家なのに、退去するときの話なんて気が早いな……」と思いながら聞いていた、という経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
むろん、賃貸借契約における「原状回復」は、貸し手にとっても、借り手にとっても、大変重要な取り決めごとですのでしっかりと理解しておく必要があります。

「原状」という言葉は、元々あった状態、初めの状態を示す言葉です。
原状回復とは、すなわち「元々の状態に戻す」という意味を持つ表現となり、賃貸借契約においては、入居者は借りていた部屋からの退去時に、原状回復を行ってから退去することの義務を負うことが民法で定められています。

尚、賃貸借契約においては、賃借人(借り主)が賃貸人(貸し主)へ家賃の1~2ヵ月分ほどの金額にあたる「敷金」を予め預けることが一般的です。
この敷金があった場合には、原状回復費用はまず敷金から賄われ、余った金額があれば賃借人へ返金されるという流れになります。一方でもし原状回復費用が敷金よりも高くなってしまった場合には、賃借人が追加で費用を支払うこととなります。

それでは、この「原状回復」について、物件のどのような部分、どのような状態が回復対象となるのか、見ていきましょう。

※以下説明は、いずれも民法の一般的な解釈による、一般的な事例での説明となります。実際の賃貸借契約においては、定められている内容ひとつひとつを予め丁寧に確認しておきましょう
※また、下記内容は2020年4月1日に施行された改正民法を基にしています。従って、対象となるのは基本的に2020年4月1日以降に締結された、あるいは双方同意のうえ更新された賃貸借契約となります

「原状回復」にあたらない内容(一般的に、賃借人が回復義務を負わない範囲)

まずは原状回復にあたらない内容のほうから見ていきましょう。
いわゆる通常損耗(通常の住み方をしていれば起こり得る損耗)や、経年変化(同じく通常の住み方をしていて、年月が経つにつれ起こり得る変化)については、その修繕は原状回復にはあたらず、賃借人が回復義務を負うことも一般的にはありません。

通常損耗や経年変化と解釈されるものには、以下のようなものが挙げられます。

・家具を設置していたことによる、床やカーペットのへこみの修繕
・クロスや畳の日焼けの修繕・張替
・テレビ、冷蔵庫などの電化製品を設置していた場所の背面の黒ずみ(電気ヤケ)の修繕
・地震で破損したガラスの修繕
・鍵の取り換え(鍵の紛失や破損がない場合)

「原状回復」にあたる内容(賃借人が回復義務を負う範囲)

前項でご紹介した通常損耗や経年変化「以外」の損耗や破損、汚れなどが原状回復の対象となります。
具体的には、以下のようなものが挙げられます。

・入居者の故意や不注意、手入れ不足などで汚したり、壊したりした部分の修繕
・タバコのヤニによる汚れや、匂いがついた部分の清掃・修繕
・飼育ペットによるキズ、汚れ、匂いの清掃・修繕
・引っ越し作業で生じたキズ
・用法違反により生じた設備の毀損

▼参考:法務省「賃貸借契約に関するルールの見直し(PDFファイル)

また、この項の最後にお届けする情報として、民法の該当する条文、「民法第621条」を引用掲載しておきます。
あわせて、デジタル庁が運営する法令検索サイト「e-GOV」のURLもご紹介していますので、詳しくお調べになりたいときなど、ぜひご活用ください。

▼民法第621条「賃借人の原状回復義務」
“賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。”

e-GOV法令検索-民法 こちらをクリック

「原状回復」?「原状復帰」?「現状回復」?

家の模型とハテナマーク

「原状回復」とよく混同される、あるいは、場合によっては間違って記載されがちな言葉をまとめて整理しておきます。

不動産取引を専門としている事業者側が言葉の取り違えをしてしまったり、話を混同してしまうようなことは通常ありませんが、賃借側の立場としても、それぞれの言葉を今一度正しく理解しておくほうが万全です。

【原状回復】は、前項のとおり賃借人が退去時に修繕義務を負う回復内容を指す言葉です。賃貸借契約書や法律でも使われる言葉であり、また一般的にも広く知られている用語です。

【原状復帰】は、主に建設業界や建設業に携わる人の中で使われることが多い言葉です。
元の状態に戻すための「行為そのもの」を指すことが一般的で、例えば、入居者の退去後、作業担当者が「部屋の原状回復を目的として、原状復帰の工事を行なう」……というような使われ方をします。

【現状回復】は、一般的に意味が通らない言葉(漢字の使われ方)であり、このように漢字が使われていた場合は誤記である可能性が非常に高いといえます。
少なくとも、賃貸借契約において「現状回復」という言葉が使われることはありません。
地震などの災害で建物や住宅設備が損傷を受けた際、内外装を被災前の状態に戻す行為のことを「現状復帰」といいますが、その「現状復帰」と「原状回復」を混同し誤記してしまった、というケースなどが有り得ます。

以上、「原状回復」とよく混同されやすい言葉、似ている言葉や誤記についてご理解いただけたかと思います。
本記事でテーマとしている内容、つまり賃貸借契約上、退去時に賃借人が行う修繕などの内容は【原状回復】であり、以降もこの内容について解説していきます。

リースバックで「退去」が発生するのはどんなとき?

荷造りをする人

それでは、本記事のメインテーマである「リースバックにおける原状回復」の話に移る前に、リースバックで居住している住宅から契約者(賃借人)が退去することになるのはどのような場合かを確認しておきましょう。

賃貸借契約の満了時

リースバックで交わす賃貸借契約には、「普通借家契約」と「定期借家契約」の2種があります。

普通借家契約であれば、契約期間は2年単位といったケースが多いですが、期間が終わった後も住み続けたい場合には更新を行い、新たに2年居住を継続する、といったことが可能です。貸し主は正当な理由なしに、更新を断ったり、借主を退去させることはできません。

定期借家契約の場合には、定めた期間になったら契約終了となるため、基本的に更新はありません(更新は応相談、としているケースはあります)。
定期借家契約は、予め想定した期間を過ぎたらすぐに物件の売却へ移れるなど、賃貸人(貸し主)側のメリットが大きい契約種別であるといえます。

一般的にリースバックにおいては、期間の定められた定期借家契約のケースが多い傾向にあります。

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契約違反による強制退去

家賃を滞納し続けてしまう、物件の取り扱いかたに問題がある、契約者要因によるご近所との大きなトラブル、そのほか公序良俗に反する行為など、契約者(賃借人)の行為に見過ごせないほどの大きな問題が見られた場合には、リースバックの契約上、契約違反という判断に至り、強制退去となってしまう場合があります。

例えば家賃を滞納したからといって1ヵ月で即退去、といったことには通常なりませんが、賃貸人からの督促→代払いした家賃保証会社からの督促→内容証明郵便到着→契約解除通知→裁判所へ請求の申立て、などの段階を経て、3ヵ月~半年ほどで強制退去に至ることが多くなっています。

借り主都合の契約解除

このケースでは、借り主、つまり賃借人の都合で賃貸借契約を解除し、自らの意思で退去します。
リースバックを利用していたものの新居の都合が付いた、売却物件の買い戻しは断念した、など様々な事情で発生します。

リースバックの退去時、原状回復は必要?

マルバツを持つ男女

基本的には、リースバックの賃貸借においては、退去時の原状回復は不要なケースが多くなっています。
理由としては、リースバック業者のなかには賃貸していた物件を、入居者退去後に取り壊したり、リノベーションしたりする運用方法をとっている業者が多いといった理由です(買い戻しのない場合)。

但し原状回復が不要となっている場合でも、リースバック契約後に許可なく間取りを変更する等の、物件の価値に関わるような大きな改変を行った場合には、例外となり得ます。
リースバックの手続きにおいては契約前に必ず室内の内覧が必要となりますが、その内覧は原状の間取りを確認するため、写真を撮って記録するためでもあるのです。
従ってどのような場合でも、リースバック業者に無断で物件の改変・改修を行うのは厳禁と考えておきましょう。

その他、リースバック事業者ごとに契約内容の細かな違いがあるため、契約の内容をしっかり確認しておきましょう。

尚、リースバックにおいても「通常の賃貸借契約と同様に退去時の原状回復に費用が発生する場合もある」という旨は、国土交通省の「住宅リースバックに関するガイドブック」にも記されています。

▼参考:国土交通省「住宅リースバックに関するガイドブック(PDFファイル)

【予備知識】リースバックの賃貸で、「敷金」の取り扱いはどうなっているの?

リースバックにおいて、原状回復は基本的に不要となるケースが多いが必要になる場合もある、ということが分かったところで、「そういえば、通常の賃貸では敷金をいくらか預けているけれど、リースバックではそのあたりどうなっているの?」と気になった方もいらっしゃるかもしれません。
この点も、厳密にはリースバック業者ごとに対応が異なりますが、一般的には、リースバックで自宅を売却した際の資金から、差し引かれるかたちで敷金を預けることになるケースが多くなっています。
敷金の金額は、通常の賃貸借契約の場合と同様に、家賃の1~2ヵ月分ほどが相場です。

退去時の原状回復が不要なリースバック業者の場合、敷金は退去時に全額戻ってくることが一般的です。但し、家賃の滞納や、退去時に荷物を残していったため撤去費用が必要になったなどの特殊な場合を除きます。

もし、原状回復が必要になった場合はどのくらいの費用がかかる?

お金の模型と「費用」のブロック

ここまでの解説で、基本的には、リースバックにおいては原状回復は不要となることが多く、但し事業者により異なるので事前の確認が大切ということがお分かりいただけたかと思います。

それでは最後に、もしリースバックで借りていた物件を退去する際に原状回復が必要になった場合、具体的にどの程度の費用が必要となるかを見ておきましょう。
※いずれも目安となります

壁や天井の穴などの損傷修復

箇所ごとに3万円~5万円ほど

床の汚れ除去

箇所ごとに1万円~2万円ほど

壁紙張替え

1平方メートルあたり1,000円~3,000円ほど(壁紙のグレードにより変動)
参考:一般的な6畳の部屋の壁部分総面積(約30平方メートル)の場合→3万円~9万円ほど

フローリング張替え

1平方メートルあたり8,000円~1万円ほど
参考:一般的な6畳の部屋の床面積(約10平方メートル)の場合→8万円~10万円ほど

カーペット張替え

1平方メートルあたり3,000円~5,000円ほど
参考:一般的な6畳の部屋の床面積(約10平方メートル)の場合→3万円~5万円ほど

畳張替え

1畳あたり6,000円~8,000円ほど

リースバックの退去時は、基本的には原状回復は不要! ただし契約の確認は必要

本記事では、賃貸借契約において必ず確認することになる「原状回復」という項目について、その意味や賃借人が負うことになる義務を解説しました。
あわせて、リースバック利用においての原状回復は基本的には不要なことも多いが、ケースバイケースであり、例えばリースバック業者に無断で間取りの改変を行った場合などに原状回復が必要となるケースがあることもお伝えしました。

いずれにしてもリースバック業者により契約内容は大きく異なる場合があるため、事前に慎重な確認、担当者への相談を行っておきましょう。
また、そもそも賃貸で居住中に室内設備が故障した場合、適切な範囲で適切に対応してくれるしっかりとしたリースバック会社を選択しておくことも大切です。

本記事でご紹介した知識をもとに、ぜひ適切なリースバック業者選びをしてください。

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